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有限会社ナスカ一級建築士事務所
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不揃いな地形

森の中を逍遙することは大きな楽しみである。どれも同じ木が生えているようで実際には一本としてまったく同じ木は存在しない。どの場所も似通っているよう に見えて、一カ所として同じ地形が繰り返すこともない。つまりすべての場所全ての要素がことごとく不揃いな状態にある。そのなかをあてどもなく歩くこと は、予期せぬものに出合い、機能までの自分が気付かずにいた事柄を発見する契機に満ちている。彫刻家アルベルト・ジャコメッティが突如として遭遇した「林 間の空地」について語ったとき、そこには「明るい球体の感覚」があったと述べている。立木が生い繁って、いたるところが緑陰となっている林のなかで、まる でそこだけが丸く刳り抜かれたかのように光が射し込んでいるのだろう。本来実の森林に対して虚な存在である空地が、自立的で、完結的なものとして発見され ている。地形はそれがただ僅かに傾いているだけでも、空間に方向性や偏りをもたらす。放っておけば人々は微かでも斜面を見下ろす方向に座り、反対の向きに は滅多に座らない。は前では皆一様に海の方を眺めて腰を下ろしている。全てが不揃いで、空間に祭や偏りがあるということは、それぞれの微妙な差を感じ取り、自分にとって居心地の良い、ほかにはない特別な、ある場所を選び取るための拠り所と なっている。空間のわずかな差異に気付くことは、ほんのふとしたきっかけによるものも多い。毎日毎日見馴れたいた場所にさえ、ある日突然発見されるものも ある。