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有限会社ナスカ一級建築士事務所
162-0052 東京都新宿区戸山3-15-1 日本駐車ビル4F
T 03-5272-4808 F 03-5272-4021

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東京都世田谷区宇奈根

設計 古谷誠章+NASCA
用途 専用住宅
構造 RC+S
規模 地上2/地下1
敷地 150.46㎡
延床 133.96㎡
竣工 2005.06
掲載 住宅特集2006.03、GA HOUSE 91

人間の生身の身体は、まず自分の皮膚、次に衣服、さらに建築に包まれているといえる。実際にはその外側を「外部」が包み、建物近傍の外構、まちの空間、都市の空間にまで及ぶその外部が、建築の内部の空間性を大きく左右する。人が家を求めるとき、家そのものよりも、まずその立地を問題にするのはそのためだ。物騒な土地柄なら「鎧」のような建築がいるだろうし、穏やかな土地柄なら「浴衣」くらいが快適だ。では周りがあまりにも急速に変化し、直近の周囲でさえ予測が困難なとき、「第三の皮膚」としての建築はそれにどう備えればよいのだろう。

この家は瞬く間に宅地化しつつある都市近郊に建つ。敷地をはじめて訪れたとき、周囲は一面の畑であったが、案の定この家が竣工する頃には、文字通り隣近所が建売り住宅で埋め尽くされてしまった。周囲の変化を超然と受け止める「外套」が必要だと考えた。だが壁ですべてを遮断することも、開口部を空にだけ向けるわけにもいかない。地下から屋上に向かって次第に家の殻を開いて、外部と気脈を通じつつ内部空間を確立する「まだらの箱の状態」を構想した。

この家では開口部そのものの透明度を調節する代わりに、自らの立つ位置を変え、視点の高さを変えることで、外部との関係を制御する。外部を遮断した地下室から、玄関、車庫、庭の3方へ最小限接続する接地階、下辺の高さの異なる窓の散在する2階、周囲の空に開放された屋上階にいたるこの家の各階は、その開放度と地面からの床の高さの違いによって多様な空間を生み、さまざまな居心地を選択可能にしている。とくに主たる生活の階となる2階では、採光の窓、眺望の窓、通風の窓、機械換気の窓などが、それぞれに内外の関係をにらんで配置されている。それ以外の壁の部分は、いわば内外を隔てる「衝立」として働く。

定められたコストの中で住み手の要求は、後からではできないもの、地下室から屋根裏まである建築の断面だとか、内部空間の絶対高さや広さ、白モルタル磨きの床に埋め込まなければならない床暖房等々を最優先することと、インテリアは自分たちでコーディネートしたいこと、大まかにいってこの2点であった。夫婦ふたりの生活には当面2階のワンフロアで十分だが、ここに住まいながらこれから次第に家の各部をしつらえていくことになる。外套の内外にどんなものを重ね着するかは、住み手の自由だ。

撮影 淺川 敏