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有限会社ナスカ一級建築士事務所
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小布施町立図書館 まちとしょテラソObuse Community Library / Machitosho Terrasow

長野県上高井郡小布施町小布施1491−2

設計 古谷誠章+NASCA
用途 図書館
構造 S
規模 地上1
敷地 10,511m2
延床 998m2
竣工 2009.6
受賞 2008年設計競技最優秀賞、2012年日本建築学会作品選奨、2012年日本図書館協会建築賞、2012年日本建築家協会優秀建築選、2012年AACA賞
掲載 新建築2009.11、GA JAPAN101

「栗と北斎のまち」として親しまれる小布施町には、年間を通じて120万人の観光客が訪れる。実に人口の100倍の人数だ。一方、町内には約1,000人の小中学生が暮らし、必ずやこの歴史のある町の将来を担ってくれるだろう。プロポーザルに応募しようとして敷地を訪れた日の夕暮れに、僕はこの場所が黒々とした闇の中に埋もれてしまうのに気づいた。駅前からも裏側からも真っ暗でよく見えない。薄暗い道路端では塾帰りの小学生がぽつんぽつんと母親たちの迎えの車を待っていた。きっとこの周囲を明るく照らす「行灯」のような図書館ができるはずだ。ただ静かに本を読むだけではない、人が人に出会い、思い思いに時を過ごす「広場」のような建築。これが始まりだった。要項には、施設の用途が「図書館(交流センター)」とされていた。僕が日頃考える公共施設のあり方にぴったりの注文だった。間仕切りを必要最小限にとどめ、館全体を基本的にひと繋がりの大きな空間で考える。将来の変容に備えてできるだけ柱の本数を減らしたい。そこから室内の独立柱が3本だけの鉄骨造12m三角モデュールのアイデアができ上がった。L型の変形敷地にもフィットする。問題は屋根の形だった。家の外の空間はみんなのものとして、切り妻屋根で修景してきた町である。しかし、どうしても直線的な大屋根はスケール感がそぐわない。すぐさま僕の頭にはごく自然に周囲の山々に呼応する山なりの屋根の姿が浮かんだ。新しい図書館づくりを協働した町の人びとが、この形に賛同してくれたのはとてもありがたかった。三角形のプランは、その真ん中に開架書庫のブロックが置かれて、3つの辺に沿って緩やかに区分されたスペースが生まれる。入口からまっすぐに繋がるスペースには、館長との会話や視聴覚を楽しむコーナー、テーブルでは喫茶やちょっとした飲食もできる。サクラの老木3本を活かすために抉り込んだ光庭や、小さな子どもが床に寝ころんだり直に座り込める場所もある。もう一方の小学校の校庭に面した南側では、楕円テーブルに集まって本を読みながら何かの相談をすることもできる。最も奥まった残りの一辺が、個人机で静かに読書のできるゾーンになる。子供の時間帯には全館が子どものために、大人の時間帯には全体が落ち着いた空間となる構想だ。それらを互いに区分したのではそれぞれのスペースは小さくなってしまう。元もと限られた面積だから、タイムシェアリングしてできるだけ伸び伸びと使いたい。本当は初めから館全体が森に包まれるようにしたかった。工事発注が鉄材の異常な高騰にもろにぶつかって、外構を後回しにせざるを得なかったのだが、幸い町民の間に委員会ができて、これからこの場所にふさわしい植栽を考え、徐々に増やしていこうという活動が始まった。もとより建築は、長い時間をかけてこれを使う人びとと共につくるのがよいと思っている。

https://www.town.obuse.nagano.jp/lib/

 

撮影 淺川 敏