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有限会社ナスカ一級建築士事務所
162-0052 東京都新宿区戸山3-15-1 日本駐車ビル4F
T 03-5272-4808 F 03-5272-4021

谷間の日時計の家House at Anan / Sundial House in a Valley

徳島県阿南市

設計 古谷誠章+NASCA
用途 専用住宅
構造 RC
規模 地上2階
敷地 172.89㎡
延床 183.35㎡
竣工 2007.06
受賞 2008年 日本建築家協会優秀建築選
掲載 住宅特集2008.01

徳島県阿南市にたつこの家は、現在クライアント夫婦が暮らす母屋のいわば「離れ」として計画したものである。母屋のほうは典型的な日本家屋のつくりで、主として高温多湿な夏の気候に配慮して、いかにして日射しを遮り、風通しをよくするかが工夫されて建てられていた。その反面、日照時間が短く気温の下がる冬場には、どうしても寒い家になってしまう。とくにこの家のように谷間に立地する場合には、太陽が沈むのも相当早く、冬場には午後2時過ぎにはほとんど陽が当たらなくなってしまう。
ここでは隣の母屋を「夏涼しい家」、新しく建てるこの家を「冬暖かい家」となるように考え、日本の伝統的な家の構造とは対照的に、鉄筋コンクリート造で外断熱工法を採用した。ガラスは基本的にペアガラスである。北側の全面開口部からは、隣接する田畑や山並みの風景を望み、同時に北面からの終日安定した採光を確保している。南側は谷間に差し込む日照をできるだけ取り込めるように、外壁面全体を楕円状の曲面にして、室内では1日の時間の経過につれて、朝には寝室、朝から日中はキッチンや主婦のユーティリティ空間、昼から夕方にかけてはリビングスペースに太陽が射し込むよう、大小の窓をその大きくカーブする壁にちりばめている。予想される室内側での人のアクティビティに応じて窓の大きさや高さを変え、そこから射し込む太陽の光や、窓によって切り取られる外部の緑の風景に変化をもたせている。この家の内部からはたとえ時計を見なくても、およその時刻を感じ取ることができるだろう。
この家のクライアントはもう20年近くにわたって、新しい家づくりの夢を抱き続けていた。はじめてこの土地を訪れたときに預かったそれらの思いのこもった大量の住宅雑誌には、こうしたいなぁ、ああもしたいなぁという、さまざまなイメージに付箋が付けられていた。夢とは無数の断片のようなものである。それらをこの膨らみのあるかたちの中に溶かし込んで、暮らしながらゆっくりとそれらを反芻できるようにしたいと思った。

撮影 淺川 敏