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有限会社ナスカ一級建築士事務所
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ワークス 建築という記憶装置

建築という記憶装置

記憶された情報というものは、絶えず外部化されることによって保存されていく。脳内の記憶はその人間の寿命がつきるのと同時に消えてしまうが、生前に別の人々の脳に転写されているか、または書物などの形式で外部に保存されていれば、その内容はその人間の生死にかかわらず継承され得るものとなる。   コンピュータも全く同じ理屈で装置外の国媒体が不可欠である。生命体の遺伝子もそのDNAが繰り返し複製されることによって、個体から個体へ受け継がれ、世代を越えて種の情報が保存される。記憶された情報は外部に輻射されることによってのみ常に取り出し可能な状態で維持され続ける。古い建築遺構から歴史学者が何世紀も前の情報を引き出すことができるのは取りも直さず、当時の知恵や記憶が外部化され、建築というかたちをもってその場に残っていたからである。 言語にも画像にも記録されてなくても、実物の断片がそこにあるだけで、先人の脳の中身についてある程度の推察を行うことが可能だ。建築や都市の現物は、それ自体が人類の巨大な告訴内である。今日ではそれらの情報を逐一電子情報化することは、それがたとえ膨大だとはいえ、不可能なことではないが、その情報を引き出してみようとする人間の検索視野の範囲、あるいは同時に認識できる情報の量にはもともと限界があり、認識できるのは全体のほんのわずかな部分にすぎない。しかし眼前に建築があり、実際にその内部を達歩くことによって、全貌と詳細な部分とを同時に観察し、過去の記憶を抽出する緒を見出すことができる。

「建築という記憶装置」